- 作者: カラスヤサトシ
- 出版社/メーカー: 竹書房
- 発売日: 2008/09/17
- メディア: コミック
- 購入: 12人 クリック: 45回
- この商品を含むブログ (85件) を見る
・オビ表
会社をやめてバイトをしながら、
マンガを描く日々。
29歳目前にしてふと思う。
そうだ、上京してみよう・・・。
・オビ裏
漫画家1本で生きていこう!
一念発起して会社をやめたはいいけれど、
連載するはずだった雑誌は休刊。
勢いで東京に出ては見たが・・・・・・。
まんがくらぶ連載。全1巻。
むにゃにゃう〜ん…
…
よ〜し
上京するぞ
巷に溢れる「上京物語」の、あの肩肘張った感がなく、「めっさぼんやり」上京を決意したのは、当時全く売れない漫画家だったカラスヤサトシ先生。自身の、上京を決意した時からある程度仕事が軌道に乗るまでの、2002〜2005年という半端に近くて短い過去を描いたこの漫画は、にもかかわらず鮮明な印象を読む者に与えます。
時期の近さがプラスに働いているのでしょう。「生々しくてリアルタイムに近い上京物語」という担当編集の方の狙い*1が見事に成功しています。
ヒキガエルのエピソードが印象的でした。ヒキガエルを助け損ね、目の前で車に轢かれてしまいショックを受けるカラスヤ先生。普段からの無力感に追い討ちをかけられ、「次もしも・・・・・・あんなことがあれば・・・・・・」と何故か人工呼吸の練習をはじめます。
「ヒキガエルを助けるために人工呼吸」というのは明らかにおかしいし、そもそも轢死したカエルに人工呼吸をするのは全くの無駄だし、だいたいたかがカエルじゃないかと、いくらでもツッコめる「奇行」。感覚がズレまくっています。元々、そういったカラスヤ先生自身のズレをギャグにするのが普段の作風の1つなのですが、今回はそのように受け付けられませんでした。ズレた行動も、背景が描かれていることで「生々しい悩みゆえの行動」に変わってしまいます。無力感や孤独を抱えた姿を続けて描いている積み重ねが効いてくるのです。
後にカエル事件を知人に話した時、「なんでそんなん考えんの?」の一言で心のひっかかりがとれるのですが、これって「周りに人がいる強さ」と「いない弱さ」が端的に現れたエピソードだと感じます。
カエルのエピソードはフィクションでは出てこないと思います。意味不明すぎるから。でも現実は結構意味不明な行動の繰り返しがあり、それを出せるのは経験して無いと無理なのではないでしょうか*2。
孤独や無力感といったものがリアルだと感じるのは、1つ1つ丁寧に描くカラスヤ先生の力量による所もありますが、説得力をもつ一番の要因は現在進行形でカラスヤ先生が抱えているものだからだと思います。
地元の知り合いと違って……
マンガあかんかったら今まわりにいる人たちは…
みんなおらんなるんやろーな
物語の最後でのカラスヤ先生の言葉。確固たる「成功者」の立場からは出しえない、現在進行形で戦っているものにしか出せない言葉。今現在もこうした不安を抱える人間だからこそ持つ生々しさ、これは他にない上京って、ただ東京に行く事象だけでなく、こういったものと戦い続けるって事なんでしょうね。
そういった不安から逃げ出し、ゆりかごに逃げ帰った者として、この先も戦い続けるカラスヤ先生にどうしても感情移入してしまうし、今後どのような活動をしていくか、注目してみたいと思います。