阿部川キネコ3連発 下ネタ・歴史・恋愛劇

ここ最近阿部川キネコ先生の単行本が立て続けに出てます。どれも対照的なものばかりで、阿部川先生の守備範囲の広さがうかがい知れます。
阿部川キネコ先生で一番思い浮かべるのは多分辣韮の皮(ガム連載)だと思います。漫画研究部に集うオタクたちのおかしくて楽しい、時折チクリとくる日々を描いた4コマ漫画。もう6年以上連載が続いている代表作です。そのため阿部川キネコ=オタク漫画というイメージが強い人がいるかもしれませんが、4コマ漫画誌でも実に幅広い作品を描いています。

ビジュアル探偵明智クン!! 全2巻

何がビジュアルかというと、ビジュアル面で下ネタという漫画。奇しくも下ネタ漫画の第一人者・田中圭一先生の作品集「COMICサイテー」とほぼ同時期に発売されました。一緒に読んだ僕はノックアウトされました、あまりのくだらなさに。
やたら裸になりたがる自称ビジュアル系の探偵明智クンを始めとした、変態探偵盛りだくさんのギャグ4コマ。明智クンがある時は犯人確保のため、ある時は自らの美の表現のため、またある時は訳の分からない不思議な力が働いて全裸、全裸、また全裸。ガリガリの体が酷くインパクトがあり、たちの悪いことにそれを嬉々として見せつけるっつう変態仮面と同レベルの変態漫画なのですがそれが萌え〜な女の子達が集まるまんがタイムきららで連載されていたという怪奇。
コメディ全開なので辣韮の皮が好きな人にはオススメ。(要下ネタ耐性)

■姫武将政宗伝 ぼんたん!! 1巻〜

姫武将政宗伝ぼんたん!! 1 (バーズコミックス)

姫武将政宗伝ぼんたん!! 1 (バーズコミックス)

幻冬舎WEBコミック、GENZO連載。(有料のようです)
4コマ漫画のイメージの強い阿部川先生の挑む非4コマ漫画、郷土の偉人伊達正宗がモチーフ、という意欲満点の作品。伊達政宗が実は女だったという設定であり、それを活かしたコメディ部分の面白さ(自らが男だと思い込んでいる幼い正宗が平気で裸になったり)などがありますが、歴史の人物の魅力が描かれていてむしろそっち方面が面白いです。まだ1巻が出たのみなので続きを期待したいです。
他のサイトさんのレビューを参考にどうぞ。
少女は見えない瞳で乱世を見る。「姫武将政宗伝ぼんたん!!」 - たまごまごごはん
http://b-chief.org/archives/2007/0527-0127.php


■お菓子な片想い 全2巻

お菓子な片想い 第2集 (バンブー・コミックス)

お菓子な片想い 第2集 (バンブー・コミックス)

そして今回一番書きたかった漫画はこちら。まんがライフMOMOで連載されたお菓子な片想い。作品のテーマは、題名からも分かるように「片想い」です。
主人公長谷待子(ちま)は、高校2年生の女の子。同じ高校の1学年下の手塚昌美に恋をします。友人の協力もあり、少しずつ2人の間が縮まっていっているように見えた時、手塚に好きな人がいることが分かります。好きな人=実はちまだった、という恋愛劇のベタな展開は、好きな人が同じ学校の人間ではないということで即座に否定されます。「好きな人がいる人を好きになりたくない」と手塚を諦めることを決意したちま…というのが1巻までの主な流れ。
2巻ではそんなちまの事が好きなクラスメイトの森安、森安が好きな後輩が入り混じり複雑な恋愛模様が展開されます。
手塚への想いを諦めようと思ったちま。それでも気持ちに嘘はつけず、手塚への気持ちを貫くことを決心します。手塚を想うちまを目の当たりにしても気持ちを変えられず、それなのに不器用な性格でちまに優しく出来ない森安。森安に想いを寄せるも、森安はちまが好きだと気付いてしまった後輩の鈴木伸子。作中ではぼかされていますが、手塚も辛い恋をしています。
この作品の中で光るのはちまの親友の涼原ルイ子の存在。普段はちょっと意地悪でつかみ所のない性格なのですが、ちまたちが恋に迷ったり傷ついたりした時に、導き癒してくれる役割を担います。ルイ子もまた後輩の赤塚君に想われているのですが、全くそれに気付かないどころか名前すらもろくに覚えません。報われない赤塚君なのですが、他のキャラの辛い片想いとは違いコミカルな関係性で、ストーリー全体の湿り気を晴らしてくれます。
エピローグとして8ページ追加されていますが、この部分にこの作品のテーマが凝縮されていると思います。連載では描かれなかった部分で、連載で読んでいた人はまた印象が変わると思います。
今作は4コマ漫画でありながら本格少女漫画といえると思います。下品な下ネタから繊細な感情まで描きこなす阿部川キネコ先生。他の作品も面白い作品ばかりでオススメです。(BL描いてた時期のは未読ですが)