テーマは「無軌道」の不思議な漫画 うめぼし 1巻

小池田マヤ先生を知らない人にどんな漫画家か説明するとすれば、「30過ぎのおっさんと30手前の姉ちゃんのほのぼのとした恋愛を描くと同時に、違う雑誌では10代の乱れきった性を描く漫画家」とでも言いましょうか。幅のある作風の持ち主で、それを連載する雑誌によって合わせていると感じます。前者はモーニングで連載され、後者はヤングキングで今でも連載中。幅広い世代が読むと思われる4コマ誌では、関西出身の姉ちゃん2人がベタなボケを連発するコメディが連載されてました。多作な作家なので一部しか読んでないのですが、少なくとも僕が読んだ数作品は(少し奇抜でも)少なくとも雑誌の色を意識はしていると感じました。
ところが小池田マヤ先生がヤングガンガン(以下YG)で連載している「うめぼし」が、素晴らしく雑誌の色無視しているだろっつう漫画になっております。

うめぼし 1 (ヤングガンガンコミックス)

うめぼし 1 (ヤングガンガンコミックス)

■異色過ぎる理由1:ヤリチン
ヤングガンガンの男の主人公(もしくは主役級)は、そろいも揃ってうだつが上がらない。例を挙げると、
●ヘッポコ教師(バンブーブレード)
DQN+ヒモ(天体戦士サンレッド)
●とっちゃん坊や+ヒモ(荒川アンダーザブリッジ)
●存在感が空気以下(咲‐Saki‐)
●ヘタレ佐藤(WORKING!!)あ、主役じゃないか。
と、割と本気でダメ男の集まりです。比較的しっかりしてるすももももももの孝士なんかも周りが格闘超人ばかりなので相対的にヘタレ。共通して言えるのは「女性に対して弱い」ってところです。オタク向けの色が濃いYGなのでそっちのほうが読者にとってなじみやすいキャラになるからだと思います。
対する桜沢杏はというと、こいつがメリケン帰りのヤリチンときたもんだ。
例えば朝目が覚めて、桜沢は開口一番「日本に帰ってきたんだっけ どうりで隣に女のコがいないと…」とほざく。アメリカでは常に女を20人以上囲っていたという剛の者。今までのYGにいないタイプの、というかお呼びでないタイプの男キャラ。こいつの女性に対して自信満々の態度、共感できねぇ。

話の筋はというと、アメリカの大学を落第した桜沢杏は「和の心を取り戻させたい」と願う父の言いつけで、日本のとあるギャラリーで管理人として働くことになりました。管理人ですよ。色々な住民と1つ屋根の下ですよ。当然の如く住民は美女ぞろい。まぁ普通なら「女の子達に囲まれてタジタジ」ってのがこういうハーレムタイプの設定にはありがちなベタな展開になると思われるんですが、出会ってその日のうちに彼女達の中の1人を押し倒すってのが新鮮ってかお前それ女性誌のキャラだろ。小池田先生!ここはフィールヤングじゃありませんよ!
主人公の猛禽っぷりは意外ではあるものの、物語は彼とギャラリーに住む美女3人との恋愛劇になる…と思ったら大間違いだ!
■異色過ぎる理由2:主人公の彼女・というか主人公の性癖
管理人就任早々に住人の1人に手を出し、彼女たちには今後手を出さないように釘をさされます。それも猛禽・桜沢にはたいした問題にならず、身内がダメなら他所の女を狙うんですが…その相手が50代の人妻。そうです、彼は実は熟女マニアだったのです。
てか熟女って!咲とかすももとかやってる萌え〜な雑誌でヒロインは熟女。小池田先生!ここは熟女ものがたりじゃありませんよ!
ということで3人娘を差し置いて桜沢の彼女=不倫相手としてヒロインに躍り出た藤子さん(50代・人妻・趣味:嫁いびり)なんですが、彼女がまた色っぽい。セリフから表情から熟女の魅力満載で桜沢メロメロ。この異様なカップルに困惑する3人娘。なんだこれは。

■異色過ぎる理由3:主人公の1人語りと漬物解説
話の端々で挿入される妙にハイテンションな桜沢の語りと、話の最後に締められるその回で出てくる漬物の作り方。桜沢の解説、というか1人語りはストーリの途中でも容赦なく繰り広げられます。桜沢は猛禽のクセしてメンタルが弱く、不安になるたびに「漬物を作ること」で精神の安定を保つのですが、その間意識がトリップして1人で喋りまくります。そんなんだから話の腰が唐突に折れるような印象も。
この様な演出を小池田先生はかなり意識して行っているというのが1巻のあとがきからうかがえます。

このまんがは テーマ「無軌道」です
…いや てきとーに描いているのではなくて
昔 立川談志がラジオで
「人間の会話は本来まとまりのないもので 話に関係なくてもただ気になった方向に意識はとんでそっちに話は流れる」
みたいなことを言ってて 
だからまとめたりオチをつけたり他人に見せるための「作り」は作られたリアルににかならないしがんばって作れば作るほど「作られた面白さ」にしかならない…
ということをなんとか出来ないかしらと思っていたの…で、なんとかしてみているところ。

演出面で意欲的に新しい試みを試していると同時に、ストーリーもかなり斬新でどうなるかわからない今後ですが、無軌道ながらも毎回形になってて面白いのはさすが4コマのベテラン作家。奇をてらうだけでなく、面白いです。ただ読者が「形になってる」という感想を抱くのも作者にとっては不服で、もっと訳わかんない漫画にしたいのかなぁとあとがきを読んで思ったり。
自分はいつも立ち読みなのですが、YG読んでる人にとってこの漫画がどういう位置にあるのか気になります。

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マンガ一巻読破さんのレビュー。