ジンクホワイト文庫で登場 リアルな苦さと理想の甘さ

小泉真理先生のジンクホワイトの文庫版を本屋で発見。即確保。この漫画も文庫版が出る「少し前」の作品になったのですね。

ジンクホワイト (祥伝社コミック文庫 こ 1-3)

ジンクホワイト (祥伝社コミック文庫 こ 1-3)

2001年から2003年にヤングキングアワーズで連載されていました。
この漫画を読むと、今でも高校時代の事を生々しく思い出させます。悪い意味で。
主人公のマキは女子高生なのですが、ヒロインとして愛でる対象というよりも感情移入の対象になっています。親の都合で転校。美術大を目指すため、美術科を希望したけれどもハンパな時期の転校のため認められず。しかもクラスは似た境遇の転校生と問題児ばかりが集められている「まさにハキダメ」な環境。絵のことを学ぶために美術科生徒の集まる美術部に入ろうとすれば、そこは今まで自分の学んできた絵を認めない閉鎖的な所でした。
自分の力では抜け出せない、鬱積した環境。更には競争の激しい美術大入試という不安。その中で救いの存在となったのが一学年下の美術科の生徒、和田君。美大を誰も目指さない美術科という特殊な環境の中で美大を目指す彼。最初は軽いノリでマキに近づきますが、美大を目指すための絵を学ぶマキに刺激を受け、次第に距離を縮めていきます。そして流されるように進展していく2人の恋愛関係。似た環境にいる同士の必然だと思います。
マキにとっての和田、和田にとってのマキの関係性というのは、彼らと同じ様に「今いる環境になじめない者」にとっての理想だと思います。自分の想いを理解してくれ、同じ目標を持つ同士。そのコミュニティでの唯一の仲間。そのような人物が自分の近くにいて、自分を必要としてくれる。
僕も和田くんがほしかったんです。いや、マキでもいいんですけど。自分の高校時代はつまらなかったんですよ。ろくに下調べもしないで自分のノリと全く合わない高校選んじゃって。そんな中で、自分の想いを理解してくれる存在がいたらどんなに救われたでしょうか。ジンクホワイトというフィクションを通してそういう存在にめぐり会ったマキを見ることが当時の僕の心を軽くしてくれました。
全体を通してストーリー4コマ特有の淡々とした印象。それにマキのどこか気だるい雰囲気にマッチしていて独特の温度の低さが出ていました。流されるように進んだ和田との恋愛に対してマキの態度は少し淡白でした。文庫化に当たって加えられた最終回の加筆ページには、その印象を覆されました。既読の方も是非文庫版を読んでみて下さい。少し印象が変わると思います。あくまでも少しですが。
「長らく入手困難だった」(らしい)漫画が1巻にまとめられて読めるのはとてもいい機会だと思います。

・他のサイトさんのレビューも参考にどうぞ。
そこにあるものはイキナリそこにあるんじゃないんだね - 棒日記VII -Life without art is stupid-
小泉真理『ジンクホワイト』