今まで雑誌で何気なく読んでいたのですが、単行本でじっくり読むとまた違った面が出てきました。東京クレーターのアカリ。
- 作者: 磯本つよし
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 2006/04/26
- メディア: コミック
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舞台設定は近未来、東京に隕石が落ちて出来たクレーターの中にある都市「東京クレーター」に住む「駐在さん」、アカリの日常を描いた物語。アカリの性格は明るく、人なつっこく、とにかく元気。これが作品の空気も明るいものにしているのですが、この「東京クレーター」という設定が結構クセ者です。
東京に落ちた隕石にはウィルスが付着していて、それが原因で巨大は生物が生まれるなどクレーター内の生態系はすっかり変わってしまいました。それだけならいいのですが、このウィルスは人間にも深い影響を与えます。ウィルスが感染すれば死に至ることがあり、体に障害が残り体の一部を機械にしている人もたくさんいます。日々の食事はウィルス感染を防ぐための薬を飲まなくては食べられません。ウィルス保菌者はクレーターの外に簡単に出ることは出来なくなります。こうした環境のため、外の人からは差別の目で見られます。ウィルス感染でいつ発病してもおかしくないという状況です。
こうした背景があるのに、読んでいても重さや暗さをほとんど感じさせることなく楽しい気持ちで読める、これは結構珍しいと思いました。その一因はもちろん主人公アカリの明るい性格にあるでしょうが、その他の登場人物たちもそれぞれ日々を精一杯生きている生きていて、(犯罪者も含めて!)その描写は明らかに人生を肯定的に捉えているからというのが大きいと思います。
先ほど紅の豚の様だと書きましたが、むしろ世界観は風の谷のナウシカに近いです。原因が人間か自然現象かの違いがありますが、死と隣り合わせの環境で精一杯生きている人間を描いています。ですが、人間というか人生の描き方は正反対だと思います。ナウシカは人間を愚かさな存在(そもそもの環境破壊の原因、戦争など)としているのに対し、東京クレーターのアカリは人を強い存在と置いています。(同時に『脆さ』も描きつつ)その「大変な環境でも前向きに生きる力」は読んでいて心地よいです。
この先環境破壊やら戦争やらでありがたくない世の中になっても、心の持ちようによっては人は強くと生きられる、そんな風に思える漫画です。連載間隔が不定期らしく次はいつ載るか分かりませんが、気長に待っていたいと思います。