チャンピオン祭り③

ズッと描きたいと思っていたテーマ。
「復讐劇」

米原秀幸先生はそう語りました。そして原作はあの手塚治虫。ダイモンズ。

Da¨mons 4 (少年チャンピオン・コミックス)

Da¨mons 4 (少年チャンピオン・コミックス)

ナノテクノロジーの研究者だったヘイト。会社の上層部が医療のためのナノテクノロジーを兵器に転用し、それに反対したため裏切り者とされてしまう。かつての友に両腕を奪われ、妻と1人娘の死体を見せつけられる。気を失うヘイトが抱いたのは、絶望ではなく怒りと憎しみでした。
瀕死の状態にあったヘイトを救ったのがベッケル博士。ヘイトの中にある怒りと憎しみの感情に目をつけたベッケルは、自分が開発した義手をヘイトに授けます。それは、「ゼスモス」と名づけられた見えないエネルギーで動く義手でした。新たな腕を手に入れたヘイトは、家族を奪った5人の男に復讐するため旅立ちます。
復讐劇にはその動機が必要になります。例えばベルセルクでは、グリフィスへの復讐の動機となる過去が10巻に渡って語られるのですが、それをダイモンズは1話で済ませています。たった1話ですが、その中に読者が納得できる壮絶なエピソードを濃密に描ききっています。このスピード感もこの漫画の重要な要素だと思います。現在発売している4巻までの段階で、復讐すべき5人の中の2人はもう復讐を遂げています。
復讐相手の人となりを描くと同時に、それぞれが持つナノテクノロジー兵器との戦いの迫力がまた魅せてくれます。ナノテクノロジーVSゼスモスという図は今後もストーリーの中で重大な要素となるでしょう。
4巻では両足にゼスモスを持つ男、スワロウと元同僚のヨシコが登場。彼らが今後どの様にストーリーに関わっていくのでしょうか。そして3人目の仇、アールダー。ターゲット以外殺さないポリシーを持つことで、自らが人間らしくいたいと思う男。彼のように、復讐相手は皆それぞれどこか大事なものが抜けつつも、ある意味での人間臭さを残しています。



この作品を語る上で避けられないのが、原作漫画である手塚治虫の「鉄の旋律」

鉄の旋律―The best 3 stories by Osamu Tezuka (秋田文庫)

鉄の旋律―The best 3 stories by Osamu Tezuka (秋田文庫)

ダイモンズと大分設定が違います。主人公の復讐の動機は腕を奪われたということのみです。自分を弁護しなかったことで友情を裏切ったのも動機の1つかもしれません。復讐の行方も明らかに別物であり、これを読んでダイモンズのネタバレになることはまず無いと思いますので1度読むことをオススメします。
手塚治虫先生は、生涯に凄まじい数の作品を残しました。作品数が多いからこそ、1つ1つの作品が皆多くを語られているわけではなく、鉄の旋律もその一つと言えると思います。優れた舞台背景があり、なおかつ語られているものは少ない作品は、リメイクするのにうってつけだと思います。最近ゲームや映画化がされている、手塚先生の代表作でありながら全てが語られる前に終了した「どろろ」など、今後リメイクされることがあるかもしれません。ただそれに必要なのは、作画側の確かな技量であると思いますし、ダイモンズにはそれが確実に存在します。
名作のリメイクで思い浮かぶのが、やはり巨人の星。不良が野球をするというマガジンにありがちな設定で最初は「こんなの巨人の星じゃない」と不満だったのですが、最近花形が金持ちをカミングアウトした辺りから楽しくなってきました。ただ同じ雑誌でやってるダイヤのAがかなり面白くて、どうしてもかすんでしまいがちです。
プルートウも相変わらず面白いです。こちらはゲジヒトやゴジ博士といった原作の要素を再構築したものです。手塚先生がストーリーマンガの起源であろうがなかろうが、偉大であることは揺るぎません。