傑作の予感 「キス&ネバークライ」

久しぶりに少女マンガを読んで強烈に惹きつけられました。「きみはペット」などで知られる小川彌生の「キス&ネバークライ」。アイススケートが題材の物語です。
キス&ネバークライ(1) (KC KISS)
ヒロインのみちるの存在が、作品そのものを左右しています。
ある日を境に変わってしまった少女。コーチの死。これらはまだ深く語られていませんが、確実に物語の根幹となるものです。
彼女にとってアイススケートとは何なんでしょうか。リンクの上では悲壮感が漂い、選手間では友人以外は殻に閉じこもっています。体を壊すほど打ち込んでしまうかと思えば、突然逃げ出してしまいます。
「滑らずにいられないからスケートが怖い」
「わたしの人生はきれいじゃない よごれてる」
「うまく滑れるとそれが忘れられる」
「このままだとスケートがないと生きていけない」
「(赤い靴)の女の子みたいに死ぬまで靴が脱げない・・・」
彼女にとってのスケートは、苦痛なのか、救いなのか。

また、幼馴染の礼音もまた重要な人物です。この2人が主人公なので当然ですが。
礼音といるときのみちるはリンクの上とは違い、「気分が安定」しますが同時に「幼児退行みたいな態度」をとります。それは9歳の頃のままで、彼女の時間が一部止まっているように感じます。自暴自棄、悲壮感、そして少女の頃のままの幼さ、無邪気さが彼女の中に同居しています。
礼音に対して抱いてる感情は恋愛に近いものなのか。それとも郷愁のようなものでしょうか。ただ判るのが、みちるが礼音に対し強い絆を感じていること。いずれにせよ2人の関係がどうなっていくのかも注目です。

1巻最後のアイスダンスのシーンは、少ないページ数にもかかわらず圧倒的でした。今まで心の通わなかったみちるとパートナーの晶が、恋人同士のような演技を見せたのです。しかしみちるは、晶の中に死んだ彼の兄であるかつての自分のコーチ、四方田を見ていたのです。美しい涙、今まで決して晶に見せなかった、すがるような表情。
彼の死についてみちるは何か知っているようですが、記憶を閉ざしています。これも今後重要なものになっていきそうです。
みちると父親との関係や、セルゲイという人物が今後どのように描かれるのでしょうか。

時折出てくる恋愛展開、コメディー展開も、作者の技量と懐の深さが感じられます。また、「きみはペット」の登場人物も出演していて、前作のファンにはうれしいでしょう。
スターシステムを使っている作者は最近珍しいですね。同じく少女マンガなら他に日高万里先生などが思い当たります。

オビの大人気モデルとやらのコメントが本当に邪魔です。芸能人にコメントを書かせるのはいい加減もうやめてもらいたいです。(彼女自身を非難しているわけではないので、ファンの方が見ていましたらご了承ください。)